医師への「ドクターストップ」は機能するか

  • 2023年8月4日
  • 2023年9月6日

2024年の医師の働き方改革により、長時間勤務医師(労基法第36条の時間外休日労働時間の一般則の適用を受けない医師、「特定医師」)に対する面接指導が義務化される。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター統括研究員の吉川徹氏は医師への面接指導の実際について、第95回日本産業衛生学会(5月25〜28日)で解説した。

追加的健康確保措置に基づく面接指導

2019年4月の働き方改革関連法施行により、一般労働者の時間外労働の上限は年間720時間となった(特別条項付きの36協定の締結が必要)。しかし医業に従事する医師は特別条項を締結すれば現在は時間外労働の上限は実質的にないが、医師の働き方改革が実施される2024年4月以降は年間960時間以内となる(A水準)。地域医療提供体制の確保の観点から暫定的に設置されるB水準、研修などを行う施設に適用されるC水準の対象となる医療機関では、過労死等基準(月平均80時間)を超える年間1,860時間までの時間外労働が可能となる。

 B/C水準が適用される施設では、追加的健康確保措置として「連続勤務の上限は28時間」「9時間以上の勤務間インターバル」「代償休息」に加え、「面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)」が義務化される。

 この面接指導は、労働安全衛生法に基づく面接指導と連携はするものの、医療法に基づく別の枠組みとなる()。管理者は面接指導実施医師の意見を勘案した上で、労働時間短縮や宿直回数の減少など適切な措置を実施し、面接指導実施医師の意見や措置内容を記録、保存することが求められる。

図. 面接指導の実施体制

(厚生労働省「長時間労働の医師への健康確保措置に関するマニュアル」)

面接指導時は相談者の背景を勘案

面接指導の実施時には、長時間勤務医師への共感、ねぎらいを伝えるとともに、①業務に関連した労働時間管理や労働時間以外の心身の負担要因に関する事柄②休憩・当直場所などの所属施設の物理的環境③周囲のサポート状況―を確認することが重要となる。また、医師のメンタルヘルスの特殊性に留意し、一般的な健康管理に加えて睡眠時間や睡眠の質、ストレスコーピングなどの視点も求められる。

 留意点としては、「受け身での面接か、自発的に相談に来ているのか」「初回か、2回目以降か」「面接実施医師と長時間勤務医師の関係性(上司-部下、部下-上司、同僚、知人、所属施設の産業医、外部医師)」「対処すべき問題点(個人の健康、労働環境)」などがあり、互いの関係性が面接指導の成否に影響する。例えば、同じ組織の医師による面接では本音を伝えにくいケースがある一方、同じ組織の医師だからこそタスクシェアや業務軽減、環境改善への助言がしやすい可能性もある。

 吉川氏は産業医としての経験を踏まえた注意点として、「パワハラ疑いなど早急な対処が必要な場合を除き、面接で得られた一個人の意見だけで、大きな労働環境改善を図るのは慎重にすべき。関係者で労働環境の課題を共有し、改善の要否を判断していくことが望ましい」と述べた。

 面接後にまとめられる報告書には、勤務状況や睡眠負債、燃え尽き、その他の心身の状況などとともに、対応の有無や実際に行った保健指導の内容などを記載する。上司の状況把握や指導不足、同僚からの暴言などが聴取された場合は、必要に応じて改善のための意見を補足する。

診療業務のストップではなく「働き方のストップ」

対応策の1つとなる「医師へのドクターストップ」は、「診療業務のストップ」となる以前の段階における「働き方のストップ」が重要である。面接指導の活用により、管理者に対して「当直明けは引き継ぎをして帰宅させる」「当直医に担当患者を任せて帰宅させる」などの助言を行い、指導医として診療の調整が可能な立場であれば、担当する患者数を減らすなどの措置が求められる。

 最後に吉川氏は面接指導を受けることが望ましい医師として、①高リスク〔未治療または適切に管理されていない疾患(高血圧、糖尿病、うつなど)を有する、労働時間と健康に関する適切な教育を受けていない医師〕②睡眠衛生学的に問題がある③教育・研修中④健康不安を訴える―を挙げ、また、勤務環境の改善に活用できる情報源として「いきいき働く医療機関サポートWeb」を紹介した。

 その上で、「医師による『医師へのドクターストップ』が正しく機能する面接指導の仕組みの構築が期待される。ただし、1回の面接指導や環境調整での解決が困難なケースも想定されるため、”地域医療の継続”と”医師の働き方改革”という2つの視点を踏まえ、継続的な組織的対応が求められる」と結論した。

(安部重範)
出典: Medical Tribune ウェブ

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