ますます加速?企業における健康経営の取り組み
- 2023年7月28日
- 2023年9月6日

近年「健康経営」という言葉が注目され、各企業や医療機関が健康経営を目指し、さまざまな取り組みを行っています。本記事では、このキーワードが注目されている背景を踏まえ、健康経営の概要やメリット、そして健康経営に取り組む企業の事例をご紹介します。
この記事の目次
健康経営とは

健康経営とは、どのようなものを指すのでしょうか。
経済産業省では、以下の通り定義されています。
「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます」
引用:経済産業省「健康経営」
企業が従業員の健康管理を経営課題として捉え、積極的に改善に努めることで、組織の活性化や生産性の向上が期待できるものです。
健康経営が今注目されている理由

健康経営が近年注目され始めている主な理由は4つあります。
それぞれ詳しく解説していきます。
少子高齢化に伴い、人手不足になっている
日本の全人口の大部分を占めるのは高齢者であり、労働力不足の問題が深刻化しています。高齢者が急増していく一方で、0〜14歳や生産年齢である15〜64歳(生産活動に就いている年齢)の人口が減少傾向にあります。そのため、労働人口が減少し、人材不足になることが懸念されるでしょう。
参考:内閣府「令和元年版高齢社会白書」概要版 第1章 高齢化の状況
上記に伴い、高齢者の就労奨励を行うことで労働力を確保する動きが進められています。
2025年4月からは、全ての企業において、定年退職を60歳から65歳に引き上げることが義務付けられます。これにより、高齢社員が増加するため、健康的に働ける職場環境整備がますます必須になっていくでしょう。
健康経営が会社の業績に影響を与える
アメリカの臨床心理学者であるロバート・ローゼン博士が1994年2月に著書「ヘルシー・カンパニー人的資源の活用とストレス管理」で健康経営を提唱しました。従業員の健康管理と会社の経営を統合し、従業員の健康を維持することで業績向上につながる考え方です。
この考え方は、健康経営の推進によって浸透しつつあります。従業員が心身ともに健康であれば、会社が発展する。逆も然りで従業員が心身ともに不健康であれば会社は発展しないとされています。
ワークライフバランスが重要視され始めた
ワークライフバランスとは、仕事と生活のバランスを充実させることです。昨今、働き方改革の重要性が叫ばれていますが、健康経営の観点でも重要視されています。健康経営に取り組む企業では、ワークライフバランスの実現を会社のミッションに掲げているところが多く見られます。
従業員に休みを与えず、長時間労働させてしまうと、健康状態が悪化するかもしれません。
従業員が心身ともに健康的に働くためにも、ワークライフバランスの推進は必要であり、健康経営には欠かせない要素となっています。
国がもたらす健康経営のメリット・効果

健康経営を推進し従業員の心身の健康を維持することで、さまざまなメリットが生まれます。それぞれ詳しく解説していきます。
離職率の低下につながる
精神的な不調を抱えたり、慢性的な病気に悩まされたりしていると、離職率が高まる可能性があります。一方で、健康経営を推進することで、従業員の心身の健康維持につながるため、離職率の低下につながります。
離職率が低下すると従業員が会社に定着するため、人材採用の面でコストが削減できることもあるでしょう。また業務上の知識や経験、ノウハウが蓄積されるため、労働生産性が上がる要因になります。
労働生産性が上がる
従業員の健康状態が悪いと、会社の労働生産性は下がります。特定の従業員の健康状態が悪いことで、仕事のパフォーマンスが下がり、他の社員に業務負担がかかります。業務負担がかかった従業員は、健康状態を崩し、休職や離職する可能性があるでしょう。このように負のスパイラルが起きる可能性があります。
一方で健康経営を推進することで、従業員の仕事のパフォーマンスは上がります。そのため会社全体の労働生産性が上がり、会社の業績向上につながるでしょう。
採用活動が強化できる
健康経営を推進していくことで従業員の会社に対する満足度が上がり、会社の評判も上がるため、採用活動が強化できます。場合によっては、自社の社員を通じて友人や知人を採用候補者として紹介してもらうリファラル採用も促進できるでしょう。
またホームページなどで健康経営を意識した会社作りを行っている点についてアピールすることで、企業イメージが向上できます。広告費に予算が確保できない企業にとっても、有効な手段と言えるでしょう。
国が取り組む健康経営施策

国が取り組む健康経営施策を2つ解説します。それぞれの施策に認定されることで、さまざまな効果やメリットが生まれます。
健康経営銘柄
健康経営銘柄は、国民の健康寿命の延伸に関する取り組みの1つです。
本制度は、東京証券取引所の上場会社の中から健康経営に優れた企業を選定し認定されます。
健康経営銘柄に選定されることで企業イメージの向上が期待でき、また投資家や取引先などからのイメージもアップするでしょう。また、健康経営を推進している企業は求職者が企業を選ぶ点においても安心材料の1つになります。
健康経営銘柄に選定される企業が健康経営の効果や取り組み事例などを発信することで、業界全体での推進に期待できます。
健康経営優良法人認定制度
健康経営優良法人認定制度とは、健康経営に取り組む優良な法人(大企業・中小企業・その他法人)を見える化するための顕彰制度です。健康経営優良法人に認定されることで、健康経営優良法人のロゴマークを企業PRなどで使用できるようになります。
また一部の自治体では、公共工事や公共調達の入札時における加点や、保険会社や金融機関による優遇制度を受けられるメリットもあります。これらに加え、会社全体のブランディングや知名度向上にも寄与できるため、採用面でもメリットが得られるでしょう。
健康経営優良法人ホワイト500
健康経営優良法人では、大規模法人部門認定法人の中で、健康経営度調査結果の上位500法人を「ホワイト500」として認定しています。この制度により、上場していない企業にもスポットを当てることができるようになりました。
「健康経営優良法人2023」に認定された企業事例

「健康経営優良法人2023」に認定された企業事例をご紹介します。健康経営につながる事例を学び、自施設でも取り入れて実践してみてください。
日清食品
日清食品ホールディングス株式会社は、子会社である日清食品株式会社や日清食品チルド株式会社、日清食品冷凍株式会社とともに健康経営優良法人2023に認定されました。日清食品グループでは「美建賢食(びけんけんしょく)」の精神に基づき、全社員が心身の健康を保持・増進し、仕事のパフォーマンスを最大限に発揮して業務にあたることを最重要課題の1つとしています。
2018年8月には「日清食品グループ健康経営宣言」を策定し、健康経営を戦略的に展開しています。たとえば、生活習慣病の早期発見・早期治療のために、健康診断を法定検診を上回る検査項目数で実施してきました。
また看護師や産業医と連携し、疾病就業調査やエンゲージメント調査を定期的に実施しています。これにより、社員の心身の健康とパフォーマンスレベルを把握し、社員が能力を発揮できるような仕組みづくりを行っています。
ロート製薬
ロート製薬では、ロートグループ総合経営ビジョン2030「Connect for Well-being」を掲げ、食や再生医療分野にも事業の領域を広げています。また「健康」に従事する企業として、企業の基盤を支える社員が心身ともに健康であり、情熱を持って日々の仕事に取り組めるようさまざまな取り組みを行ってきました。
2014年には日本初のチーフヘルスオフィサー、2016年には人事総務部内に健康経営推進グループを設置し、健康経営を継続しています。2018年には健康経営の考え方を「健康経営宣言」として制定。社員自らが健康であり続けるためのサポート事業に注力しています。
身体について知る取り組みとして、全社員を対象に以下のサポートを行っています。
- 全社員を対象とした体力測定の実施
- 健康リテラシー向上のためのクイズ、健康ドリルを実施
- 全社員を対象とした、睡眠状態を把握するための睡眠チェックおよび改善プログラムの実施
上記以外にも、社員合同での運動会の実施や、喫煙率を下げることを目的とした指導および禁煙外来治療費の補助も行っているのが特徴です。さらに社内健康通貨である「ARUCO」では、社員の歩数や起床時間、生活習慣に応じて健康コインを付与します。獲得したコインで、健康に関するグッズと交換できたり、社内起業家支援におけるARUCOクラウドファンディングに利用できる仕組みです。
東海記念病院
医療法人社団喜峰会は「職員全員が家族のような、暖かい血の通った医療を提供する法人」を目指し、職員の心身の健康維持のためにさまざまな取り組みを行っています。各種健康セミナーやイベントの開催、福利厚生や退職金制度の見直しなどを行い、職員の健康増進のために注力してきました。
たとえば職員食堂をリニューアルし、食生活改善への取り組みを行ったり、ウォーキングイベントを開催して職員が楽しみながら健康増進に取り組めるようなサポートを行っています。
社団美心会
美心会グループでは「職員の健康を最重要視し、職員の生産性の向上および法人全体の活性化を図る。取り組みを外部に広く公開し、社会全体の健康経営への意識向上を図る」
上記方針のもと、社員の健康増進に向けてさまざまな取り組みを行っています。
1つ目は、職員の健康サポートプログラムの実施です。スポーツトレーナー・理学療法士・管理栄養士・保健師などの専門職が連携し、職員の運動習慣をサポートするプログラムを行います。このプログラムを行うことで、参加者の血糖値や体重、LDLや中性脂肪などを低下させることが実現できています。
2つ目は、マラソン大会への参加です。職員の健康維持増進と地域の活性化を目的に、毎年「ぐんまマラソン」に参加しています。グループでは参加者を増やす施策として、参加費用の法人負担、大会終了後に慰労会を開催、目標達成者には商品を授与するなどのサポートが行われています。
3つ目はモニターツアーへの参加です。群馬県上野村エナジーツーリズム造成事業、健康森林EASE(イーズ)プログラムに参加し、健康的な生活習慣を継続するコツを学ぶことができます。EASEプログラムとは、「Encourage Autonomous Self-Enrichment program=自主的な自己涵養促進プログラム」の略で、「やらなくてはいけないのに、できない。」といった、ダイエット・運動・禁煙などを達成するのに有効なプログラムで、マインドフルネスやノルディックウォーキング、森林セラピーなどを体験することで、より健康的な生活が送りやすくなります。
これらのプログラムを実行することで職員のモチベーションやパフォーマンスアップ、医療の質の向上につながり、美心会の年間売上向上にも貢献できています。
[参考URL]
健康経営
医療・介護業界に迫る「2025年問題」が及ぼす影響と、今考えておくべきこととは
健康経営とは? 意味とメリット、やり方・取り組み例を初心者向けに解説
【2023年度版】健康経営銘柄とは? 選定基準や2022年選定企業5つの事例
日清食品グループ4社が「健康経営優良法人2023 (ホワイト500)」に認定
社員一人ひとりの健康から社会の健康へ、取り組みをさらに加速「健康経営優良法人2023(ホワイト500)」に認定
健康経営への取組み
健康経営について

医療機器メーカー(東証プライム市場上場)の営業職に約10年間従事。薬機法管理者資格、YMAA認証マーク取得。クリニック開業サポート・医院継承サポート実績あり。日々、多くの医師やコメディカルと関わり合いながら仕事しています。