働き方改革で年収30%超UPを実現 ~東邦大学大森病院整形外科の取り組み~
- 2023年7月21日
- 2023年9月6日

2018年6月に働き方改革関連法が成立し、2019年4月から順次施行されている。医師に対しては5年の猶予期間が設けられたが、施行開始の2024年4月が間近に迫る。この法令実施に向け、東邦大学医療センター大森病院整形外科では2018年から独自に働き方改革を実践してきた。同科講師の青木秀之氏は、第96回日本整形外科学会(5月11~14日)でその内容を紹介。「当科独自の働き方改革により、若手医師の年収が30%超アップした」と述べた。

4本の柱を設定
働き方改革の目的について、厚生労働省の公式サイトには「働く方1人1人がより良い将来の展望を持てるようにすること」とある。青木氏は、同科における働き方改革を進めるに当たり、医局員が希望を持って働ける組織づくりを目指した。
同氏はまず、医局員および医療スタッフ(看護師、整形外科外来事務)の希望や不満を聴取することからスタート。面談の結果、医局員からは収入アップ、休暇取得、将来設計を描きやすい人事の実現といった要望が出た。医療スタッフからは、セクシャルハラスメント、些細なことに対する怒声、高圧的な態度や雰囲気の改善を求める声が上がった。
これらを基に同科では、①給与・待遇の改善、②有給休暇取得率の改善、③キャリアプランの作成、④パワハラ・セクハラの撲滅―という4本の柱を設定した。
16年間据え置きの給与体系を見直し
給与・待遇の改善では、16年間据え置かれていた週1日の外勤アルバイトの給与体系を見直した。民間の医療斡旋業者の求人情報を参考に、関東地方の4区域(東京23区内、東京23区外、千葉・埼玉・神奈川、茨城・栃木・群馬)における1日当たりの平均給与を推計し、他大学病院の給与体系とも比較した上で、同科の適正給与を算出した(図)。また、祝日や学会参加などによる休診に伴い発生する給与の偏りを是正するため、従来の回数制から4.2日/月の月給制への変更が必要と考えた。
図.適正な給与の算出

新たなアルバイトの給与体系の適用を求め、青木氏は全派遣先病院の担当者と面談。交渉の結果、2018年10月に新規の給与体系が導入された。
同氏は「経験年数20年超のベテラン医師では12.5%の年収アップ、経験年数4年の若手医師では30%超の年収アップが実現し、適正な給与の改善ができたのではないか」と評価した。
有給休暇取得率は6割前後と大幅改善
2018年以前の同科における有給休暇取得率は17~28%だった。厚生労働省が公表している2018年の就労条件総合調査では、全国医療・福祉従事者の有給休暇取得率は52%だったことから、青木氏は有給休暇取得率52%前後を目標に改善を図った。
取得率低迷の背景には、自由に有給休暇を申請しづらい職場文化があると考えられた。そのため、曜日を固定して順番に有給休暇を取得できる体制を整えた。
また、収益の柱である入院および手術の件数は減らしたくないという病院側の意向を汲み、整形外科の手術枠がない土曜日を有給取得推奨日に設定。入院および手術の件数を維持した上で、休暇の取得を促した。
その結果、2019年の有給休暇取得率は55~61%と大幅に改善。現在も同等の取得率を維持しているという。
キャリアプラン作成で短期的目標を実現
キャリアプランの作成にも着手した。医局員との面談では、医局における将来設計が描きにくい、人事異動が場当たり的といった指摘があった。そこで青木氏は、再度、講師以下の全医局員と面談を実施し、短期(2年)、中期(5年)、長期(10年)の目標を聴取し、個別のキャリアプランを作成した。
キャリアプランに基づき2年がかりで2度の人事異動を行い、短期の目標はほぼ実現できた。しかし、中・長期的目標の実現については課題が多いという。
パワハラ・セクハラを撲滅
パワハラ・セクハラに関して、ハラスメントの境界線を明確にするのは難しい。青木氏は、2部署以上から訴えがあったケースを「パワハラ・セクハラの可能性あり」と定義。当該医師と個別面談を実施し、状況を確認。その上で、パワハラ・セクハラ行為をやめるよう指導した。また、全医局員に対してパワハラ・セクハラに該当する行為を具体的に明示し、注意を喚起した。同氏は「現在、パワハラ・セクハラは確認されていない。しかし、外科医の働く環境はパワハラ・セクハラを生みやすいと認識し、今後も定期的なチェックやヒアリングを継続していきたい」との考えを示した。
以上を踏まえ、同氏は「働き方改革の1つの形として、当科での取り組みを紹介した。実践した4本の柱のうち、給与の改善、有給休暇取得率の改善、パワハラ・セクハラの撲滅は達成できたが、キャリアプランの改善については課題が残る」とまとめ、今後について「引き続き積極的に働き方改革に取り組んでいきたい。さらに、病院全体での改革も必要になるだろう」と展望した。
(比企野綾子)
出典: Medical Tribune ウェブ