デジタルヘルスの活用メリットと導入事例

  • 2023年7月14日
  • 2023年9月6日

人生100年時代と言われる昨今、デジタルテクノロジーとヘルスケアの発展が注目を集めています。このデジタルヘルス技術の進歩は、超高齢化社会が加速して増大する医療費の問題を解決する鍵になるでしょう。

本記事では、デジタルヘルスケアのメリットや導入事例を解説し、今後のあるべき姿について解説します。デジタルヘルスケアに関する知識を高め、有効活用できる体制を作っておきましょう。

人生100年時代に求められるデジタルヘルスとは?

ヘルスケアとは、健康増進や健康維持のために行う行為や健康管理を指す言葉です。公益財団法人日本ヘルスケア協会では、ヘルスケアについて以下の通り定義しています。

「ヘルスケアとは、自らの『生きる力』を引き上げ、病気や心身の不調からの『自由』を実現するために、各産業が横断的にその実現に向け支援し、新しい価値を創造すること、またはそのための諸活動をいう」

引用:公益財団法人日本ヘルスケア協会「ヘルスケアの定義」

人生100年時代と言われる昨今、少子高齢化が進み、医療費の増加が大きな社会問題として取り上げられています。そして、医療費削減のために有効な方法と言われているのが「診療報酬の抑制」です。

しかし、診療報酬の抑制は医療機関の収益確保に打撃を与え、経営維持に影響を与えます。そこで注目されているのがデジタルヘルスケアです。

デジタルヘルスケアとは、以下の技術を活用し、患者の健康維持や健康管理を行うことを指します。

  • 人工知能(AI)
  • チャットボット
  • IoT
  • ウェアラブルデバイス
  • ビッグデータ解析
  • 仮想現実(VR)

デジタルヘルスケアを効果的に活用することで、疾病や介護の予防につながり、医療費抑制に貢献できるでしょう。

デジタルヘルスケアの市場規模

新型コロナウイルスの蔓延や少子高齢化の進行により、デジタルヘルスケアの市場規模は年々拡大しています。

厚生労働省によると、日本における2020年の医療費は43.9兆円。2030年には約62兆円に上昇するとされています。

また、みずほ銀行の産業調査では、国内におけるヘルスケア市場規模は2018年時点で55.3兆円。さらに2040年には100兆円の規模まで拡大する見込みとしています。

医療費の増大が加速する中で、ヘルスケア市場規模は今後も伸長していきます。

ヘルスケア産業を成長させることで、医療費を削減し、健康寿命の延伸が期待されているのです。

デジタルヘルスケアがもたらす患者側のメリット

デジタルテクノロジーとヘルスケアをかけ合わせて応用することで、患者にとってさまざまなメリットが生まれます。デジタルヘルスケアがもたらす患者側のメリットは以下の通りです。

患者自身が健康管理をしやすくなる

デジタルテクノロジーの発達により、患者自身の状態管理や疾患における発症予測ができるようになりました。代表的な例としては、ウェアラブルデバイスが挙げられます。

たとえば、時計型のウェアラブル機器では、脈拍数や歩数だけでなく、心電図や動脈血酸素飽和度などのデータが収集可能です。さらには呼吸疾患の判定を行うアプリや、血圧を測定するアプリなども開発され、医療機関でしか行えなかった管理が可能になりました。

また現在では、バイタル管理に加え音声や表情、会話内容や画像などから状態管理を行う技術も発達しています。従来数値化が困難であった指標が、客観性を帯びて患者自身で確認可能になることで、健康管理がよりしやすくなるでしょう。

疾病兆候や生理学的動向の研究が進み、医療の質が向上する

デジタルテクノロジーが患者の生活と密接な関係を持つ時代が来たことで、疾病罹患時のデータが収集しやすくなりました。

各種デバイスが患者の生活に取り入れられることで、疾病兆候や生理学的動向の把握のために必要なデータが連続的に収集できます。また、その収集データは臨床研究ではなかなか得られないものもあり、臨床的に有意義とされています。

デジタルテクノロジーによる常時接続性は、今後の在宅医療や遠隔医療などの現場でも応用されていくでしょう。これにより、患者に対する医療の質の向上が期待できます。

患者自らが情報収集しやすくなる

バーチャルコミュニティの台頭により、インターネットを介したヘルスケア領域の情報収集が盛んになっています。特にSNSなどのバーチャルコミュニティが広がりを見せることで、患者自らが自発的に医療情報の収集を行うようになりました。

特定の疾患を持つ患者が集まる疾患特化型SNSや、患者の生活をサポートする家族向けのコミュニティなどがあります。今後も、患者に価値ある情報が提供されるバーチャルコミュニティが広がりを見せていくことが予想されます。

患者の治療実績向上に寄与できる

ゲーム性を持ったVRは、人々の娯楽の選択肢を広げるだけでなく、医療現場でも活用され始めています。たとえば、リハビリテーション領域にゲーム性を帯びた治療を加える例が注目されています。

ゲーム性を帯びた治療には没入感が生まれ、患者が前向きに治療と向き合いやすくなる効果が期待できます。患者自身が楽しみながらVRを活用したリハビリテーションを行うことで、治療のモチベーションが保ちやすくなります。結果として、治療実績の向上が図れるでしょう。

デジタルヘルスを活用したデバイス・サービス事例

デジタルヘルスケアを活用した医療デバイス・サービスはますます発展を遂げ、患者の生活と密接な関わりを持つようになってきました。

そこで今回は、デジタルヘルスケアを活用した医療デバイス・サービス事例を紹介します。

自身の健康管理や疾患治療のために、今後活用を検討してみてはいかがでしょうか。

【自宅で体調変化を早期発見】呼気分析デバイス「ViraWarn」

日常の中で気軽に呼気を検査することで、不調を確認できる呼気分析デバイス「ViraWarn」は疾患の早期発見に貢献できます。

ViraWarnは、呼吸器感染症を呼気から診断するために、アメリカのOpteev社によって研究・開発されました。

機器に内蔵した導電性バイオセンサーが、呼気内のウイルスを感知し、AI解析を行います。

陽性であれば、本体のLEDライトが赤色に点灯し、陰性であれば緑色に点灯します。

ウイルス種別までは判別できないものの、以下のウイルスのスクリーニングに活用可能です。

  • 新型コロナウイルス
  • インフルエンザウイルス
  • RSウイルス

メーカーのOpteev社によると、ウイルスがセンサーに接触した際の電気抵抗率はウイルス変異の影響を受けないとされています。そのため、新型コロナウイルスの変異株の検出も期待されています。

【慢性疼痛を緩和】身体埋め込み型デバイス「PROCLAIM」

セント・ジュード・メディカル社(現アボット社)によって研究・開発されたPROCLAIMは、疾患や外傷の治癒期間を過ぎて長引く痛みを捉え、内蔵しているセンサーが慢性疼痛の痛みの兆候を感知するといいます。

また弱電流刺激を発生させることで、症状を和らげる「脊髄刺激療法」という仕組みを採用しているのが特徴です。

脊髄刺激療法は、デバイスを介して低レベルの電気エネルギーを送ることで、痛みの感覚を低下させる効果が期待できます。また治療効果を医師だけでなく、患者自身が確認しやすいことから、患者のQOLとコンプライアンス向上が期待できるでしょう。

一般的な脊髄刺激療法の場合、プログラミングケーブルが障害となり、治療が困難になるケースがあります。一方でPROCLAIMは、インビジブルトライアルシステムと呼ばれる仕組みを採用しています。

これにより、機器全体の形状が小さくなり、患者は衣服の下に目立たせることなく装着することが可能となります。この構造を搭載することで、患者への負担を抑えながら治療が行なえます。

【バイタルデータを医師と共有】遠隔医療サービス「Viso」

Visoは、高血圧症などの慢性疾患に悩む患者が測定したバイタルデータを医師と共有できる遠隔医療サービスで、患者が自宅で測定した体重や血圧などのバイタルデータが共有できます。

また、従来の製品であるHypertension Plusは高血圧患者向けの製品でしたが、Visoは糖尿病や心臓病などの慢性疾患患者にも適応しています。

オムロン・ヘルスケア社は「高血圧患者以外にも同じシステムを使いたい」との声を医師から受け、Visoを研究・開発し、遠隔医療サービスを展開しました。

医師側で、患者の通院時以外のバイタルデータのトレンドを確認することで、患者の状態が把握しやすくなります。

Visoに登録されたバイタルデータは、オックスフォード大学が開発した投薬プログラムによって解析可能です。

解析されたデータをもとに、プログラムから医師に対して3回分の投薬プランが提案されるため、このプランを活用することで治療計画の立案・実行がスムーズに行えるようになるでしょう。

Visoは、慢性疾患治療のサポートに貢献し、心血管疾患の早期発見・早期治療に貢献できる医療サービスと言えます。

デジタルヘルスケアを活用して日本の医療を支えよう

年々増加傾向にある医療費を抑制するためには、デジタルヘルスケアを活用した変革が必須です。デジタルテクノロジーとヘルスケアを融合しICTを有効活用することで、疾患の発症や重症化の防止が期待できます。また、効率的な診断や治療に貢献できるでしょう。

最優先しなければならないのは、病気にかからないこと。

そして病気にかかった際に、早期に対処し重症化させないことです。早期発見・早期治療を行うことで、患者のQOLが向上し医療費削減にもつながります。

患者の日常生活の中で、どれだけ健康維持・健康管理のサポートを行えるかが重要です。今後もAI技術の発展が加速する時代の中で、いち早く情報をキャッチアップしながら積極的に活用していく姿勢が求められます。

[参考URL]
ヘルスケアの定義
ヘルスケア~医療のパラダイムシフトを見据えた日本のヘルスケア産業のとるべき方向性~
デジタルヘルスの進展から未来の医薬品産業を考える
「手軽な検査」「遠隔医療」「五感活用」、存在感を増す健康テック


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