医療現場で進むタスク・シフト / シェア

  • 2023年6月30日
  • 2023年9月6日

2024年から適用される医師の働き方改革に伴い、医療現場ではタスク・シフト/タスク・シェア(シェア)の重要性が注目されています。
一方で、いまだにタスク・シフト/シェアの方法やポイントがわからない方もいるかもしれません。

そこで本記事では、タスク・シフト/シェアで押さえるべきポイントや事例、実行すべき内容について解説します。
タスク・シフト/シェアを円滑に行い、働き方改革に対応していきましょう。

タスク・シフト/タスク・シェアとは?

医師の働き方改革の重要性が叫ばれるようになった昨今、タスク・シフト/シェアの推進が盛んになっています。しかし、タスク・シフト/シェアがどのような意味を示すのかご存知ない方がいるかもしれません。

そこでタスク・シェア/シフトがどのような役割を担うのか。なぜ必要なのかを解説します。タスク・シェア/シフトの意義を理解し、2024年から適用される医師の働き方改革に対応できるよう準備しておきましょう。

タスク・シフトとは

タスク・シフトとは、看護師や薬剤師などの医療従事者に対し、医師が抱える業務の一部を別の人に「業務を移管」することを言います。現在では、臨床工学技士や臨床検査技師などの職種にも、医師のタスクをシフトする具体的な施策が検討されています。

タスク・シェアとは

タスクシェアとは、看護師や薬剤師などの医療従事者に対し、医師が抱える業務を他の人とも分け合う「業務の共同化」することを言います。医師と、医師以外の医療従事者が協力して業務を遂行することで、医師の負担を減らすことを目的としています。

タスク・シフト/タスク・シェアが注目される背景

タスク・シフト/シェアが注目される背景には、医師の働き方改革が関係しています。

医師の働き方改革とは、2024年4月から始まる、医師の健康状態の確保と長時間労働の是正を目的として行う法改正のことです。働き方改革では、医師の時間外労働に関し、月45時間、年間で360時間の上限が課されます。(一部例外あり)

[参考]:厚生労働省「医師の働き方改革(令和3年度)」

もし時間外労働時間の上限に反した場合、使用者に罰則が適用され、最悪の場合、医療機関側の社会的信用が失われる可能性もあるでしょう。

そこで対策として実行されるのが、タスク・シフト/シェアです。

医師の業務を移管・共同化することで医師の労働時間を削減する効果が期待できるため、
働き方改革の一環として必要不可欠な施策となっています。

他職種とのタスク・シフト/タスク・シェア

厚生労働省の「医療機関の勤務環境改善の好事例の取組の体系」によると、タスク・シフト/シェアの対象業務は以下5つです。

  1. 医師事務作業補助者の配置
  2. 看護補助者の配置
  3. 特定行為研修修了看護師の配置
  4. 院内薬剤師の配置
  5. その他、他職種へのタスク・シフト

タスク・シフト/シェアは、医師のみならず看護師などの業務負荷軽減にも寄与します。
それぞれ詳しく解説していきます。

医師事務作業補助者の配置

医師事務作業補助者は、医師の事務的な業務をサポートする職種です。
主なタスクは以下の通りです。

  • 診断書や診療情報提供書などの医療文書作成代行
  • 電子カルテなどの診療記録の代行入力
  • カンファレンス準備
  • がん登録
  • 外科手術の症例登録

2008年には「医師事務作業補助体制加算」が診療報酬として設定され、医師事務作業補助者を配置する医療機関は増加しています。一方で、作業補助者のスキルが育たず、タスク・シフト/シェアが進まないという課題もあります。
今後、作業補助者のスキル育成のための取り組みが必要でしょう。

看護補助者の配置

看護補助者の主な業務は、看護師長および看護職員の指導のもと行われます。
主な業務内容は以下の通りです。

  • 療養生活の世話(食事・清潔・排泄・入浴・移動など)
  • 病室内の環境整備
  • ベッドメイキング
  • 看護用品および消耗品の整理整頓

上記業務を行う職種は、ナースエイドや看護助手と言われ、おもに看護師の業務負担軽減を目的に各医療機関で配置されています。

特定行為研修修了看護師の配置

特定行為研修修了看護師とは「特定行為に係る看護師の研修制度」の研修を修了した看護師をさします。本研修は、2015年10月に保健師助産師看護師法に位置付けられた研修制度です。理解力や思考力、判断力や専門的な知識向上を目的とし、医師が作成した手順書に沿って特定行為を行うために作られました。

医師が行う特定行為を看護師が行うことで医師の業務負担軽減に貢献できるため、多くの医療機関で取り組みが推進されています。

院内薬剤師の配置

院内薬剤師の業務は、病棟で患者さんに対して服薬指導などを行うことです。
チーム医療に参加し、患者さんに対して適切かつ安全な薬物療法を行うことで、医師や看護師との連携が高まります。結果、患者さんに対するケアの高度化やインシデント低減、医師や看護師の時間外労働の低減に貢献できます。

その他、他職種へのタスク・シフト

看護師や薬剤師以外にも、以下の職種において、タスク・シフト/シェアが推進されています。

  • 診療放射線技師
  • 臨床検査技師
  • 臨床工学技士
  • 理学療法士
  • 作業療法士
  • 言語聴覚士
  • 視能訓練士
  • 義肢装具士
  • 救急救命士
  • 管理栄養士

上記の職種にタスク・シフト/シェアを図ることで、労働環境改善が期待できるでしょう。

タスク・シフト/タスク・シェア事例紹介

ここからは、タスク・シフト/シェアを取り入れている病院の事例を紹介します。タスク・シフト/シェアを取り入れることで、医療従事者の負担軽減や患者さんへのきめ細かいケアが実現できるようになります。ぜひ取り入れて実践してみてください。

アウトカムが出る「病院常駐型チーム医療」でタスク・シフト/シェアへ(社会医療法人近森会 近森病院)

近森病院では医師における書類作成や各種会議の参加の他に、薬剤やリハビリ、転院相談などの業務を他職種にタスク・シフトしています。他職種にタスク・シフトすることで医師が手術や治療、診断などのコア業務に専念できるようになり、医療の質と労働生産性が向上。医師の働き方改革に貢献できるようになったといいます。

また、タスク・シフトする前までは管理栄養士が少なく、患者さんに対して栄養サポートのアウトカムが出ていませんでした。そこで管理栄養士の増員を実施。管理栄養士が1病棟につき1名体制で常駐する「病棟常駐体制NST」を開始しました。

これにより、薬剤師やリハビリスタッフ、臨床工学技士や歯科衛生士などに加え、管理栄養士がチームに参加。病棟常駐型のチーム医療がスタートしました。現在では、配属している先輩管理栄養士が新人管理栄養士に対し、病棟における栄養評価と栄養サポートの方法を指導しています。

また、院長がNSTカンファレンス時に患者さんの診方について指導することで管理栄養士に高い専門性が備わっています。チーム医療で医師が行うコア業務を他職種のスタッフが行うことで、労働生産性が向上し、患者数が増加。売上向上に貢献し、人件費アップの原資となり「ペイできる」チーム医療が実現できています。

ICUにおけるチーム医療でタスク・シフト/シェアへ(社会福祉法人恩賜財団 済生会熊本病院)

済生会熊本病院では、ICU18床において、集中治療医や各スタッフが常駐しながらチーム医療で診療しています。新型コロナウイルス感染症専用病棟として7床をゾーニング運用しており、時には医師が看護師の業務を行うケースもありました。

そこで、看護師や薬剤師、臨床工学技士や理学療法士などの他職種へタスク・シフトを実行。業務をパス化することで医師の指示がなくても各スタッフが自発的に対応できる体制をつくりました。

その体制づくりの一環が、鎮静に関するタスク・シフトの実行です。

看護師や薬剤師、理学療法士が主体となって鎮静の深さの違いで起こるせん妄やICU退室時の歩行状況を検証。それぞれの役割のもと取り組みを行った結果、鎮静剤の投与量や危険行為が減少し、適切な鎮静管理ができています。

救急外来で看護の専門性を守りながらタスク・シフト/シェアへ(三重大学医学部附属病院)

三重大学医学部付属病院では、救急外来にて人手が不足しており、他の診療科の医師が救急外来を兼務する状況がありました。そこで、看護部長・看護副部長・救急科師長・病棟主任・救急科医師によるワーキンググループを立ち上げ議論を実施。結果、事前に作成したプロトコール(下図)をもとに採血や検査を看護師が行うことでタスク・シェアを図っていきました。

現在では、統一されたプロトコールを救急科スタッフ全員で共有することで、より効率的かつ質の高い医療提供が実現。プロトコールの一部には、医師法第20条に抵触する懸念があったものの、厚生労働省のガイドラインをもとに確認を実施。法令で定める看護師の業務範囲を逸脱しないことを確認しながら、医療安全管理を行っています。

多職種連携強化のためのタスク・シフト/シェアへ(市立野洲病院)

市立野洲病院では、医師の時間外労働が少ない状況ではあるものの、看護師業務が多いことから職種間の連携に課題がありました。そこで経営層の合意を得た後、院内でプロジェクトチームを発足。これまで8割の高齢患者に発生していた皮膚脆弱化によるスキントラブルに対し、本来は医師の指示が必要な創傷処置の指示に関するプロコールを作成し、 看護師がすぐに処置を行える態勢を構築。これにより、医療の質向上と看護師業務の円滑化を実現しています。

タスク・シフト/シェアを成功させるために

タスク・シフト/シェアを成功させるためには「業務の標準化」が必要不可欠です。

業務の標準化を実現させるためには、誰が業務を担当しても同じような質を担保できるようにマニュアルをつくる必要があります。
また緊急時の対応など、有事の際の対応策を記したマニュアルがあると、より安心できるでしょう。

とはいえ、マニュアルがあっても個人の能力の違いからマニュアル通りに業務をこなせない場合もあるかもしれません。業務がこなせない事態を防ぐためにも「指導方法が統一された人材育成」が必要です。

指導方法が統一されていれば、育成担当者の業務負担が軽減され、誰が指導しても同じクオリティの教育が受けられます。そのため、一定のレベルを持つ人材が育ちやすくなり、タスク・シフト/シェアがしやすくなるでしょう。

そしてタスクシフト/シェアを実現させ、人手不足の解消や医療の質向上を目指し、働き方改革に貢献していきましょう。

[参考URL]
医療機関の勤務環境改善の好事例の取組の体系
病院運営に資するチーム医療とタスク・シフトとは
看護の専門性を守りながらタスク・シフト/シェアを遂行する
タスク・シフト/シェアとは?課題を解決し効率的に導入するヒント

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