医師の残業と研鑽の切り分け方
- 2023年6月23日
- 2023年9月6日

医師の働き方改革、すなわち、医師の時間外労働規制が来春の2024年4月から始まります。
それに伴い、各医療機関では自院で勤務する医師の労働実態を把握し、労働時間を削減する対策が求められています。
臨床医の仕事は患者さんの病状に応じて対応する必要があるため、就業時間を過ぎても医療機関に残って勤務していることが日常的です。これまで、医療機関に残っている時間は残業なのか自己研鑽なのか曖昧にされてきましたが、時間外労働の規制が開始されるために、改めて議論されているという現状があります。
この記事では、このように労働実態の評価として話題に上がりやすい、医師の残業と研鑽の切り分けについて解説します。
この記事の目次
2024年に実施予定の医師の働き方改革の主要なポイントは? ~自己研鑽と残業手当に関する取り扱いについて~

病院に勤務している医師(臨床医)は、患者さんの病状に応じてすぐに対応する必要があります。電話対応で済むこともあれば、診察のために病室に向かう必要もあります。日中の診療が長引いたために、就業時間を過ぎても医療機関に残って仕事をすることは日常的に経験します。
一方で、臨床業務ではなく、教科書や論文を読んだり臨床から得た知見を発表する準備をしたりする、といった自己研鑽のために病院内に滞在していることも少なくありません。ただし、その研鑽の作業を行なっている最中に、入院患者さんの対応を要請されて結果的に病院内に滞在している時間が増えてしまう、ということもよく経験します。
つまり、医療機関に滞在している時間は、残業であると捉えられますし、自己研鑽であるとも捉えられるため、その切り分けは非常に難しいのです。
まずは、労働に関する用語の整理から説明します。
労働時間とは
労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間で業務に従事する時間です。これには、業務に必要な準備・後始末、業務上義務付けられた研修・教育訓練、指示があれば即座に業務に従事しなければならない待機時間が含まれます。
労働時間は、労働契約や就業規則に関係なく、客観的に使用者の指揮命令下にあると評価される時間として定められます。
自己研鑽とは
医師の自己研鑽とは、労働時間外に自由意志で行われる研究・学習活動であり、業務や使用者の指示とは無関係なものです。自己研鑽は労働から離れた状態で実施され、医師がいつでも終了できることが必要です。
業務の準備や後処理、病院で義務付けられた研修などは労働時間に該当し、自己研鑽には含まれません。自己研鑽は医師の専門性向上のために重要であり、労働法制とは別枠で考慮されるべきものです。
残業代の取り扱い
医師の働き方改革において、残業代の取り扱いは重要な課題となっています。
例えば、ある医師が主たる勤務先であるA病院で8時間、副務先のB病院で4時間働いたとします。この場合、その医師の1日の労働時間は12時間となり、4時間分が時間外労働となります。
2024年4月からの新規則では、時間外労働の割増賃金が最低50%に引き上げられます。
そのため、この医師はその日の労働に対する割増賃金を受け取ることができます。
この計算は、本務先と副務先の両方で行われます。つまり、A病院とB病院のそれぞれで、時間外労働の割増賃金の対象となる時間を計算し、それに応じた報酬が支払われます。
また、固定残業代がある場合でも、実際の労働時間と一致するかどうかを確認し、必要な場合は調整することが求められます。例えば、固定残業代が月20時間分とされていても、実際には月30時間の残業をしていた場合、その差分の10時間分についても割増賃金が支払われるべきなのです。
これらの具体的な計算や確認を通じて、医師の労働時間が適正に管理され、適切な報酬が支払われることが求められています。
現役医師に聞いた、それぞれの病院の実情とは
医師A 「残業申請は未だに紙で申請しています。」
医師B 「所定労働時間外の研鑽は残業扱いとなっています。」
医師C 「研鑽と労働時間の境目が曖昧なので、同じ時間働いても申告の時間外が違うことがあります。」
医師D 「働き方改革に向けて、実際の当直医師は管理当直となり、泊まって寝るだけ、急患はオンコール医師が対応という本末転倒な不都合が起きています。」
医師E 「診療課長から時間外は80時間以上書かないでと言われて、それ以上はサービス残業です」
臨床医は、病気を罹っている患者さんの診療を行うことが仕事ですが、その診療の中から多くの知見を得ています。そのため、前述したように医療機関に滞在している時間は時間外診療=残業と捉えることもできますが、自己研鑽であるという捉え方もできるのです。
時間外労働時間の上限が制限されることで、このような労働と研鑽に対する病院側の認識と各臨床医自身の認識とのズレについて悩んでいる医師は少なくありません。
労働基準監督署が各病院にヒアリングに来ているケースもあるようですが、病院内での勤務状況をどのように評価するのかということは非常に注目されています。
2024年春に向けて、病院側はどう対応すべき?

2024年の医師働き方改革に向けて、病院は本格的に働きやすい労働環境を整備することが求められています。
医師とのコミュニケーションを密にした労務管理
適切な労務管理を行うことが求められます。これには、客観的な勤怠記録を取る仕組みを導入し、医師の労働時間を正確に把握することが重要です。
具体的には、労働状況をタイムリーに確認できるシステムを導入し、医師の過重労働を防ぐために労働時間の上限や勤務間インターバルを遵守するシフトを組むことが望ましいでしょう。
また、病院側と医師側とのコミュニケーションをよくとって、働き方改革に関する認識を共有することも大切です。
臨床医は病気に伏す患者さんを回復させたい、臨床経験を増やして学びたいという気持ちで診療に臨んでいます。これが結果的にサービス残業になってしまうのは労働意欲の低下に繋がるため、避けなければなりません。
最近では、副業や兼業を行う医師も増えています。それぞれの医師の労働状況を勘案した柔軟な対応策も必要になるかもしれません。これらの対応を通じて、医師の働き方改革に対応し、適切な労働環境を実現することが病院に求められます。
Dr.JOYを活用した「残業・研鑽 」のカンタン申請

医師向け勤怠システムを提供しているDr.JOYでは、ビーコンを活用することで医師の勤務時間や院内滞在データを収集し、超過時間を自動で「残業・研鑽」に仮入力してくれる仕様となっています。
医師は日頃からビーコンを携帯するだけで出退勤が自動打刻され、院内のどこに・どれくらい滞在したのかを把握することができます。これにより、労働時間の客観的な管理が容易になり、働き方改革の目的である適正な労働時間の確保に寄与します。
また、本サービスはWEBブラウザのほかスマホアプリにも対応しているため、医師は院外からでも手軽に申請することができます。
「残業・研鑽」申請の紙運用が不要に
現在、数多くの病院が医師の残業申請・研鑽申請を紙で運用しています。
しかし、そんな病院ではもっぱら申請書の提出率の低さが課題となっており、月末になると労務スタッフが医師の勤務状況を確認すべく奔走する、という状況に陥っている所も少なくありません。
Dr.JOYでは、そんな紙運用による手間を少しでも軽減できるシステムを採用しています。
時間外労働の自動抽出と簡単申請

あらかじめ設定した勤務予定時間がタイムラインの《予定》に入力されるため、それ以外に検知された時間を残業もしくは研鑽で
申請します。残業・研鑽の表示項目はプルダウン式で選択することが可能です。

上長はメンバーから上がってきた申請を一括承認することも可能です。

申請・承認作業はアプリから行うことも可能です。
医師は、ビーコン発信機を身に着け業務にあたることで出退勤の自動打刻が可能となりますが、そのためにはあらかじめ、自分の所定勤務予定時間を入力しておく必要があります。
そうすることで、所定勤務予定以外の時間に勤務していたことが検知された場合、図のように超過時間として記録されます。医師はその超過時間を残業もしくは研鑽のいずれかで申請しなければならないのですが、病院側はあらかじめ、検知時間によって「残業・研鑽」のいずれかを仮入力しておくことができます。
また、項目によってどういった作業内容が想定されるかを候補に入れておくことで、医師はプルダウンから選ぶだけで簡単に申請することが可能となります。
承認者側もまた、配下メンバーから上がってきた申請を一覧で確認することができ、必要に応じて一括承認することが可能です。なお、これらの申請・承認作業は、ブラウザとアプリの両方から操作することができます。
[参考URL]
医師の研鑽と労働時間に関する考え方 について
医師の働き方改革について

整形外科専門医
医学部を卒業し初期研修医としての経験を積んだ後、整形外科の専門研修を終え、現在は中規模病院で整形外科医として常勤。週に1回以上の当直勤務をこなしながら2人の娘を育てるという両立を図りながら、医師としてのワークライフバランスについて日々模索中。